歴史作家桐野作人のブログ                                      織田信長と島津氏・薩摩藩・幕末維新を中心に歴史にまつわる身辺雑記
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谷口克広

信長研究者で著名な谷口克広氏から表題の新刊をご恵贈いただいた。多謝。
吉川弘文館の「戦争の日本史」シリーズの第13巻である。

ご本人から一年近く前に脱稿していた話は聞いていたが、ようやく上梓の運びとなったようである。
信長とその家臣団について、谷口氏にはすでに定評のある多くの著作がある。本著は信長の合戦を逐次年代順に詳しく検討したものである。
谷口氏があとがきで述べているように、氏には『織田信長合戦全録』(中公新書)という類書がある。そのため、今回はカテゴリーを変更するなど、同書との差別化に苦労のあとがうかがわれる。

まだすべて通読していない段階だが、個人的に感じた点、思いついた点を列挙しておく。今回はあえて注文も書いておきたい。

1,武田信玄の西上戦の評価
 以前に武田氏研究者の柴辻俊六氏の新刊を紹介したが、柴辻氏は信玄は上洛をめざしたと結論づけていた。谷口氏は染谷光廣氏の信長との決戦ののち、元亀四年(1573)五月頃に上洛する予定だったという説に賛同している。一種の二段階上洛戦とでもいえばよいだろうか。柴辻氏とさほど矛盾する見解ではないだろう。

2,長篠合戦の叙述には不満
 前著もそうだったが、本書でも長篠合戦の記述が非常に少ない。想像するに、藤本正行氏の説にさほど付け加える点がないと考えておられるのだろうが、谷口氏の長篠合戦論を拝読したいものである。
 なお、前著では同合戦を「中世的騎馬軍団と近世的鉄砲隊との戦いなどとする位置付けは、あまりに短絡にすぎる」と評していたが、本著ではその評価が消えている。本書のほうが分量的に余裕があるはずだから、分量の関係でないとすると、何らかの見解の変更があったのか。ご本人に聞かずばなるまい。

3,安土城天主と本丸「清涼殿」風の建物との関係
 これは合戦ではないが、天下人信長の政権構想を考えるにあたって避けて通れない問題である。
 本丸の「御幸の間」(清涼殿風建物)を見下ろす形で天主が建っているという位置関係から、信長が天皇を凌ぐ地位を望んでいた、天皇に自分を見上げさせるつもりだったという説に対して、谷口氏は天主は天下人のシンボルだから、山頂に屹立させるのは当然である。信長にいくら尊王の念が強かったとしても、御幸の間を天主より上には地形的に置けないだけのことである。もし信長がその気なら、京都御所のすぐ近くに巨大な邸宅でも建てたほうが効果的ではないかと反論している。まったくその通りで痛快である。

4,三職推任の評価
 これも合戦ではないが、織田権力期における公武関係では重大事件である。谷口氏は従来から、三職推任の主体(言い出しっぺ)を京都所司代の村井貞勝の勇み足だとしていたが、本書でもその考え方は踏襲されている。
 そして今回は、信長が三職推任への回答を保留したという研究者が多いなかで、「じきに三職のどれかに就くということは断った、と見るべきである、したがって、この月末の最後の上洛の時に返事をするなどということは、はじめからありえなかった」と、保留説を一蹴している。堀新氏や私の立場に賛意を表されている。もっとも、「じきに~」と書かれているところを見ると、その後の任官の可能性は排除していないと見るべきか。

5,イエズス会関係史料への否定的評価
 谷口氏とは多くの点で意見が一致することが多いが、この問題だけはいつも意見が分かれる。私などは同史料をなるべく評価したいほうだが、谷口氏はその逆だ。
 本書でも、有名な信長の自己神格化の一節について、宗教の欺瞞性や迷信をもっとも嫌ったはずの信長のこれまでの立場との「著しい不整合」を指摘し、さらに日本側の史料になぜこれだけ盛大な祭典の記事がないのかと疑問を突きつける。
 また信長が「シナに艦隊を派遣する」という同史料の記事にも、極端すぎると否定的である。
 今後、この問題は谷口氏ともっと議論したいと思う。

信長の合戦を扱った本なのに、合戦以外の部分に紙数を割いてしまい、偏った内容になった。これも私の問題関心と重なるためであり、ご寛恕いただきたい。合戦については私の感想などより、直接読まれることをお勧めする。

信長の天下布武への道(戦争の日本史13)
谷口克広著
吉川弘文館
2006年12月刊
四六判/定価2.625円



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【2006/12/22 20:46】 | 新刊
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