歴史作家桐野作人のブログ                                      織田信長と島津氏・薩摩藩・幕末維新を中心に歴史にまつわる身辺雑記
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NHK大河ドラマ「篤姫」第43回「嫁の決心」

本日、再放送を観ました。1週間遅れの感想です。

ドラマ進行時点は慶応2年(1866)秋から翌3年6月まで。

まず、幕末の最重要期をわずか1回で通り抜けるのは、やはりいささか無謀かと感じました。

一橋慶喜の徳川宗家相続と将軍就任の間には3カ月以上のタイムラグがあります。なぜ慶喜がすぐ将軍にならなかったのか、そこには小さくない意味があるのですが。
また孝明天皇の死もあっさりしていましたし、「列侯会議」と呼ばれる、いわゆる「四侯会議」も簡単に済んでしまいましたね。とくに四侯会議は、薩摩藩が総力をあげて、公議政体への移行を画策したものだけにもう少し丁寧に描いてもよかったのではと思います。

違和感をもった第一は、四侯会議解体後、将軍慶喜が兵庫開港の勅許を得たが、長州寛典は許されなかったというナレーションです。

そんなことはありません。たしかに四侯会議では、久光が長州寛典を先にやり、挙国一致体制を構築してから兵庫開港に臨むべきだと主張し、他の三侯もそれに同意しましたが、慶喜は順番を逆にして奏請しました。

その結果、慶喜の奏請どおりの勅許が出たわけですが、長州寛典も一応認められています。『徳川慶喜公伝』史料篇三には、5月24日付の「朝廷よりの御沙汰書」が収録されています。それには、兵庫開港の勅許のほかに、長州処分についても次のように書かれています。

「長防の儀、昨年上京の諸藩、当年上京の四藩等、各寛大の御処置の御沙汰あるべく言上、大樹においても寛大の処置言上これあり、朝廷同様思し食され候間、早々寛大の処置取り計らうべきこと」

四侯も慶喜も長州の寛大な処分を望んでいるので、朝廷でも同様で早急に寛大な処置を取り計らうようにという趣旨です。形式だけですが、長州寛典も勅許されているのです。

問題は、慶喜が兵庫開港に重きを置き、長州処分のスケジュールを明らかにしないなど具体的な処置を示さなかったことです。久光が怒ったのはそのせいでした。

そこで、薩摩藩では平和的な周旋にはもはや限界があるということで、いよいよ討幕の意志を示すことになります。
その時期がいつかといえば、慶応3年(1867)6月16日より少し前のことです。それは長州藩の山県狂介(のち有朋)と品川弥二郎に対してです。2人はひそかに上京して、薩摩藩邸に潜伏していました(大久保利通邸かもしれません)。

2人が国許に送った復命書には次のように書かれています(『修訂防長回天史』五下)。2人は島津久光に面会を許され、四侯会議が失敗し、「幕府反正の目途とてもこれなき事につき、今一際尽力の覚悟罷り在り候」と、久光から何らかの覚悟があることを伝えられました。その覚悟の具体的な中身は小松邸で明かされます。

「その後西郷同伴にて小松帯刀の僑居へ集会し、西郷・大久保・伊地知列座にて、小松曰く、今日主人よりも御話し仕り候通り、幕府の譎詐・奸謀尋常の尽力にては、とても挽回の期これあるまじくき、ついては長薩連合同心戮力致し、大義を天下に鳴したく、弊藩一定の見込み、御熟談仕るべく候間、腹臓なくお気付きの事件お指揮成し下されたし」云々

小松邸に、山県と品川が呼ばれ、そこには西郷・大久保・伊地知が同席していました。そこで小松が、幕府は譎詐・奸謀をし反省の色がないので、これ以上通常の尽力ではとても挽回できない。長薩が連合同心して、大義を天下に示したいと述べたというのです。

学界においては、この小松の宣言こそ、薩摩藩が武力討幕を決意した時期だというのがほぼ定説になっています。つまり、

武力討幕を宣言したのは、ほかならぬ小松

だという見方です。

ドラマでは、西郷・大久保が討幕を言い出し、小松がそれにストップをかけようとするシーンがありましたが、史実や定説とは大変かけ離れていますね。違和感の最たるものはこれでした。

なぜこのような史実と異なる描き方になるかといえば、大政奉還の評価に関わり、小松が坂本龍馬の念願した大政奉還を推進し、討幕とは異なる道を歩もうとしたという落としどころに導きたいがためです。龍馬(小松も)は武力討幕に反対した平和主義者だったという、根拠のないイメージにこだわりたいがためです。イメージと史実とは別だというのはいうまでもありません。

明日の龍馬暗殺をどのように描くかわかりませんが、

西郷・大久保VS小松・坂本

という対立構図を描き出そうということのようですね。
そこから導き出されるのは、数年前の大河「新選組」と同様、龍馬暗殺の陰に薩摩(西郷か大久保)ありという見方です。
今回のドラマの性格上、明日はそこまで明示しないのではないかと思いますが、そのように思わせる仕掛けにはなるかもしれません。

討幕の密勅の請書に小松帯刀も署名しています。この密勅の手続や様式には大いに疑義がありますが、小松・西郷・大久保らはあくまで真正なものと考えていましたし、実際の効力もあったわけです。その請書に署名したということの意味は大変重いと思います。


西郷・大久保VS小松・坂本

という、陳腐でありえない構図を描くより、

小松・西郷・大久保・坂本・土佐VS会津・桑名・紀州・藤堂・見廻組・新選組

の対立構図のほうがいかに根深いか考えてみれば、すぐわかることです。
前者が幕府政治廃絶=広義の倒幕では一致していたことは常識の部類です。
だからこそ、それを恐れる後者があくまで幕府政治を維持しようとしたわけで、大政奉還に対する巻き返しの反動が近江屋事件というテロリズムとなって表れたとみるべきでしょう。

なぜ、一昔前は常識だった見方ができなくなったのか不思議でなりません。

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【2008/11/01 22:03】 | 篤姫
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西郷・大久保VS小松・坂本
町田明広
桐野さん、こんにちは。

まさにご指摘の通りの展開が想起されますね。
このところの篤姫の展開の速さには、目が回る思いですが、その割には未だ回数が
残っていますから、大政奉還や無血開城を、西郷・大久保VS小松・坂本の図式で
ゆるりと描き、最後は篤姫と小松による無血開城工作にまで発展しそうな勢いと
感じております。倒幕後、全員が顔を揃える場面が出てこないか、心配です。

小松が後世、忘れ去られたのも、西郷・大久保路線との対立で説明を付けられそうな
不安もあります。影響力が大きな番組だけに、少々危惧いたしますが・・。
しかし、久光の扱いも酷いものですね。久光を曲りなりにも研究の対象とする者に
とっては、残念な思いもあります。

まあ、とは言えドラマですから、そう目ぐじらを立てるべきではないのでしょうか(笑)

泰葉
ばんない
うーむ、この大河をいまだに「幕末ドラマ」としてみている人が割と多いのが不思議でなりません。宮崎あおいのコスプレプロモーションビデオじゃないんですか?(苦笑)

この大河の脚本家は表題の今話題のトラブルメーカーの方の御親友だそうですから、まあ、今後の展開も押して知るべしということで。桐野さん的には踏んだり蹴ったりの結末になるようです。

西郷・大久保と小松
桐野作人
町田明広さん、こんばんは。

>小松が後世、忘れ去られたのも、西郷・大久保路線との対立で説明を付けられそうな不安もあります。影響力が大きな番組だけに、少々危惧いたしますが・・。

ご指摘のとおりですね。
西郷・大久保との対立では具合が悪いのか、それをぼかして、小松がみずから身を引いたとか、すでに「伝説」が創作されています(笑)。
外国事務局の重職にあるのに、みずから消えるはずはないんですが……。

まあ、西郷・大久保とくに大久保が小松を抑圧したという学術論文まであるくらいですから、しかたがないことなんでしょう。一般の歴史ファンだけのせいではありませんから。

泰葉
桐野作人
ばんないさん、こんばんは。

脚本家が泰葉と親しかろうがどうだろうが、ちゃんとした筋立てで書いてくれれば、私も文句はいいません。



ばんない
こんにちは。2日続けてご立腹のご様子、ご愁傷様です。
>脚本家が泰葉と親しかろうがどうだろうが、ちゃんとした筋立てで書いてくれれば、私も文句はいいません。
それはそうですけど、NHKから出た『完結編』なるネタバレ本を立ち読みしたところ、「私って時代劇にも向いてるかも、また(時代劇か大河ドラマの脚本)書きたーい」なんて書いてられるくらいのお方ですから(涙)

懸念されるのは、いまだにこの茶番劇を史実と思っている人が多そうなことなんですよね。『徳川慶喜』くらいなら主人公の立場から見てある程度はしょうがないと我慢できましたが『新選組!』そして今年の奴でしつこく薩摩藩側を矮小化しているところをみるとNHK的に何か企みでもあるかと勘ぐってしまいます(苦笑)。居なかったことになっている長州藩士が無茶苦茶に矮小化されないだけかえってうらやましかったり。


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2008/11/02(Sun) 01:17 |   |  #[ 編集]
西郷・大久保VS小松・坂本
桐野さん、こんにちは。

まさにご指摘の通りの展開が想起されますね。
このところの篤姫の展開の速さには、目が回る思いですが、その割には未だ回数が
残っていますから、大政奉還や無血開城を、西郷・大久保VS小松・坂本の図式で
ゆるりと描き、最後は篤姫と小松による無血開城工作にまで発展しそうな勢いと
感じております。倒幕後、全員が顔を揃える場面が出てこないか、心配です。

小松が後世、忘れ去られたのも、西郷・大久保路線との対立で説明を付けられそうな
不安もあります。影響力が大きな番組だけに、少々危惧いたしますが・・。
しかし、久光の扱いも酷いものですね。久光を曲りなりにも研究の対象とする者に
とっては、残念な思いもあります。

まあ、とは言えドラマですから、そう目ぐじらを立てるべきではないのでしょうか(笑)
2008/11/02(Sun) 15:19 | URL  | 町田明広 #-[ 編集]
泰葉
うーむ、この大河をいまだに「幕末ドラマ」としてみている人が割と多いのが不思議でなりません。宮崎あおいのコスプレプロモーションビデオじゃないんですか?(苦笑)

この大河の脚本家は表題の今話題のトラブルメーカーの方の御親友だそうですから、まあ、今後の展開も押して知るべしということで。桐野さん的には踏んだり蹴ったりの結末になるようです。
2008/11/02(Sun) 19:28 | URL  | ばんない #kyBjvhlc[ 編集]
西郷・大久保と小松
町田明広さん、こんばんは。

>小松が後世、忘れ去られたのも、西郷・大久保路線との対立で説明を付けられそうな不安もあります。影響力が大きな番組だけに、少々危惧いたしますが・・。

ご指摘のとおりですね。
西郷・大久保との対立では具合が悪いのか、それをぼかして、小松がみずから身を引いたとか、すでに「伝説」が創作されています(笑)。
外国事務局の重職にあるのに、みずから消えるはずはないんですが……。

まあ、西郷・大久保とくに大久保が小松を抑圧したという学術論文まであるくらいですから、しかたがないことなんでしょう。一般の歴史ファンだけのせいではありませんから。
2008/11/03(Mon) 00:18 | URL  | 桐野作人 #hxjklqKc[ 編集]
泰葉
ばんないさん、こんばんは。

脚本家が泰葉と親しかろうがどうだろうが、ちゃんとした筋立てで書いてくれれば、私も文句はいいません。
2008/11/03(Mon) 00:20 | URL  | 桐野作人 #hxjklqKc[ 編集]
こんにちは。2日続けてご立腹のご様子、ご愁傷様です。
>脚本家が泰葉と親しかろうがどうだろうが、ちゃんとした筋立てで書いてくれれば、私も文句はいいません。
それはそうですけど、NHKから出た『完結編』なるネタバレ本を立ち読みしたところ、「私って時代劇にも向いてるかも、また(時代劇か大河ドラマの脚本)書きたーい」なんて書いてられるくらいのお方ですから(涙)

懸念されるのは、いまだにこの茶番劇を史実と思っている人が多そうなことなんですよね。『徳川慶喜』くらいなら主人公の立場から見てある程度はしょうがないと我慢できましたが『新選組!』そして今年の奴でしつこく薩摩藩側を矮小化しているところをみるとNHK的に何か企みでもあるかと勘ぐってしまいます(苦笑)。居なかったことになっている長州藩士が無茶苦茶に矮小化されないだけかえってうらやましかったり。
2008/11/03(Mon) 16:59 | URL  | ばんない #kyBjvhlc[ 編集]
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