歴史作家桐野作人のブログ                                      織田信長と島津氏・薩摩藩・幕末維新を中心に歴史にまつわる身辺雑記
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大河の感想、久しぶりに書きます。

今回のタイトルは「西郷吉之助」。
いよいよ西郷の登場です。

しかし、前回も疑問に思いつつ書かずにいたのですが、勝海舟の軍艦奉行罷免・神戸海軍操練所閉鎖と龍馬が西郷吉之助に会ったのと、時系列が逆になっている。

海舟の罷免は江戸帰府命令が元治元年(1864)10月22日、免職が11月10日。
操練所の閉鎖は翌慶応元年3月9日。

それに対して、龍馬が西郷に初めて会ったのは、元治元年8月初中旬頃(会見日は特定できず)。

なぜ逆にしたのだろうか。制作者の意図がよくわからない。
時系列どおりに描いても、何か不都合なことがあったとは思えないが……。
ひとつ考えられるのは、ドラマでは龍馬が西郷に不信感を抱いている点を強調したかったために、龍馬たち脱藩浪士が薩摩藩からの雇用に積極的に応じたのではなく、行き場を失って致し方なく消極的に応じたとしたいがためだろうか。
もしそうだとすると、その後の西郷の描き方にも関わってくる伏線なのかもしれない。しかも、実態からずれた……。

しかし、ドラマとは逆に、龍馬と薩摩藩はむしろ親近的だった。
何より、操練所では薩摩藩士も20名ほど学んでいたのである。のちの連合艦隊司令長官の伊東祐亨がその代表である。また、禁門の変でも、薩摩藩の砲隊長、中原猶介は操練所の塾生(薩摩藩士たちだろう)を動員し、海軍砲で長州藩兵を背後から砲撃して潰乱させている。この海軍砲はおそらく操練所から借用したものだろう。
操練所と薩摩藩の親近性はかくのごとしであり、龍馬が薩摩藩を忌避する理由はそれほどない。

龍馬が西郷に長州藩を砲撃したのを攻め立てる口ぶりだったが、自分と同じ塾生が薩摩藩側で従軍していたのを考えると、おかしい言い種である。

また、薩摩藩が京都市中に放火して、お龍らが焼け出されたとして、これまた龍馬が西郷を責めていた。
通説では、長州藩兵が籠もる鷹司邸に火を放つ決断を下したのは一橋慶喜で、これがきっかけになって京都市中の多くが焼失したといわれている。
一方、鷹司邸への放火について、西郷が国許の大久保一蔵に宛てた書簡に次のようにある。

「(長州兵が)鷹司家内へ逃げ込み、砲戦これあり、又々崩しがたく、此の御方より砲隊並びに二組の人数を以て、打ち挫き火攻めに及び候処、たまり兼早々退去候由」

薩摩藩も鷹司邸を「火攻め」にしたと,西郷は認めている。これは慶喜の命によるのか、薩摩藩の独自の判断かはよくわからない。
なお、薩摩藩は長州藩の拠点だった嵯峨の天龍寺にも放火している。

なお、西郷が禁門の変で流れ弾で足に負傷したのは事実である。

西郷が当初、長州征伐に熱心で厳しい処分を考えていたのは事実である。
『海舟日記』元治元年9月11日条によれば、
防長二州は半国を以て禁裡の御物成とし、半は征討の諸侯え下されへし」と,薩摩藩は建白していた。つまり、半国は朝廷領、半国は従軍諸侯への論功行賞というわけである。

しかし、ドラマのナレーションにあったように、対長州強硬論者だった西郷がのちに豹変して寛大論に転換する。
その最たるきっかけは9月11日に西郷が勝と会見したからだろう。
有名な大久保宛て西郷書簡(9月16日付)で、西郷は勝を
「実に驚き入り候人物」「この勝先生にほれ申し候」
と絶讃する。そして勝から「共和政治」を示唆される。これが寛大論への転換の背景にあった。
なお、西郷が(越前藩とともに)勝に会見を求めたのは、ちょうど勝が江戸下向の予定になっており、将軍家茂の上京を説得してもらうためだった。西郷は将軍家茂上京により、幕府に長州征伐への本気度を示すように要求していたのである。

ドラマでは、西郷と勝の会見も省略してあったし、操練所閉鎖後に龍馬が西郷に会うことにしてしまったために、西郷がすでに寛大論に転じていたことを描けなくなってしまった。無理して時系列を逆にした矛盾が露呈してしまった。
そこまでしても、制作者は龍馬と西郷の対立を強調したいらしい。イヤな予感がする。

余談ながら、ドラマの中で龍馬がよく口にする幕府海軍ではなく日本海軍という考え方だが、龍馬と佐藤与之助の両塾頭が勝海舟に提議した構想がある(『海舟日記』文久3年8月7日条)。

「尚又神戸は関西の海局と相定め、朝庭(朝廷)の令を以て人物御任撰、惣都督に据え」

龍馬は神戸の海軍操練所は幕府海軍ではなく、朝廷の命令に従う海軍で、摂海防御や西日本防衛の任にあたり、関西の諸藩がその経費を提供するというものだった。
この日本海軍建設について、龍馬と海舟の構想は異なっていたのではないかと指摘がある(松浦玲『勝海舟』筑摩書房、2010年)。

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【2010/06/28 01:14】 | 龍馬伝
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龍馬伝の脚本家
-
 あまり詳しいことはいえないのですが、この龍馬伝の伽本をお書きになっている方は、史実にそのままのっとって物語を作るということは、作家=クリエーターとして不名誉なことである。歴史再現ドラマを作っているわけではないので、史実を微妙にいじったり捻ったりすることが、創作者としての矜持なのだ、という歪んだ自負をお持ちのようです。
 百歩譲って、史実に対して功名に「改変」を加える妙味なるものがあるとしても、それが物語に劇的な効果をもたらしたり、読者=視聴者の心を揺さぶる優れた演出効果が認められるならば、という前提があるように思うのです。しかし…。正直なところ、いままでも、そしてこれからも、あまり意味のない小手先の改変としか思えないような史実の書き換えが頻出します。
 そんなに、ご自分の作家性やストーリーテラーとしての才能(笑)を誇示したいのであれば、なにも歴史上の人物や設定など借りないで、いかようにでも好きな物語を書けばいいじゃないか、と思わず毒づきたくなります。
 たとえ小説であれテレビドラマであれ、歴史物を扱う場合はそれなりの「マナー」というものがあるように思います。腕のいい作家なり脚本家であれば、動かしがたい事実関係にはいっさい手をつけずに、それでいて独自の視点や人間観に基づく独創的で魅力的な物語をつむぎだすことができると私は思います。その過程で、たとえば「ありえたかもしれない」嘘を上手に入れるという「腕前」に、私は惚れ惚れしてしまうのですが、あまりに高望みでしょうか?


できればハンドルを
桐野
はじめまして。

できれば,ハンドル付けていただければ有難いです。

仰せの趣、一理あるかもしれませんね。
史実には敬意を払うべきだろうと私も思います。

「敬天愛人」
ばんない
古めの記事へのコメントお許し下さいませ

本日(7/14)の昼のNHKの番組でも『龍馬伝』第3部の番宣みたいなことをやっていたので見ましたが、どうも今後の坂本龍馬と薩摩藩の関わりの描き方には不安を感じるような紹介内容でした…。最も他の事の描き方にも不安いっぱいですけどね!(苦笑)

私は、この回で薩摩藩邸の床の間に「敬天愛人」と大書された掛け軸がかかっているところで大爆笑してしまったのですが。ありえない、というのもありますけど、あんまりなわざとらしさがギャグマンガのネタみたいで…。

不吉な予感
桐野
ばんないさん、こんにちは。

番宣をご覧になったばんないさんの直感は当たるかもしれませんね。
今回のドラマは悪役と良い役がはっきり分けられていて、西郷は悪役に分類されていると思います。
龍馬と西郷の関係は、信義や友情ではなく、損得づくの打算的な関係として描かれるのではないかと思われます。

ですから、近江屋事件などは、龍馬はもう用済み→西郷が暗殺の黒幕という最悪のシナリオが予想されますね。




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この記事へのコメント
龍馬伝の脚本家
 あまり詳しいことはいえないのですが、この龍馬伝の伽本をお書きになっている方は、史実にそのままのっとって物語を作るということは、作家=クリエーターとして不名誉なことである。歴史再現ドラマを作っているわけではないので、史実を微妙にいじったり捻ったりすることが、創作者としての矜持なのだ、という歪んだ自負をお持ちのようです。
 百歩譲って、史実に対して功名に「改変」を加える妙味なるものがあるとしても、それが物語に劇的な効果をもたらしたり、読者=視聴者の心を揺さぶる優れた演出効果が認められるならば、という前提があるように思うのです。しかし…。正直なところ、いままでも、そしてこれからも、あまり意味のない小手先の改変としか思えないような史実の書き換えが頻出します。
 そんなに、ご自分の作家性やストーリーテラーとしての才能(笑)を誇示したいのであれば、なにも歴史上の人物や設定など借りないで、いかようにでも好きな物語を書けばいいじゃないか、と思わず毒づきたくなります。
 たとえ小説であれテレビドラマであれ、歴史物を扱う場合はそれなりの「マナー」というものがあるように思います。腕のいい作家なり脚本家であれば、動かしがたい事実関係にはいっさい手をつけずに、それでいて独自の視点や人間観に基づく独創的で魅力的な物語をつむぎだすことができると私は思います。その過程で、たとえば「ありえたかもしれない」嘘を上手に入れるという「腕前」に、私は惚れ惚れしてしまうのですが、あまりに高望みでしょうか?
2010/06/28(Mon) 02:22 | URL  |  #-[ 編集]
できればハンドルを
はじめまして。

できれば,ハンドル付けていただければ有難いです。

仰せの趣、一理あるかもしれませんね。
史実には敬意を払うべきだろうと私も思います。
2010/06/30(Wed) 08:22 | URL  | 桐野 #hxjklqKc[ 編集]
「敬天愛人」
古めの記事へのコメントお許し下さいませ

本日(7/14)の昼のNHKの番組でも『龍馬伝』第3部の番宣みたいなことをやっていたので見ましたが、どうも今後の坂本龍馬と薩摩藩の関わりの描き方には不安を感じるような紹介内容でした…。最も他の事の描き方にも不安いっぱいですけどね!(苦笑)

私は、この回で薩摩藩邸の床の間に「敬天愛人」と大書された掛け軸がかかっているところで大爆笑してしまったのですが。ありえない、というのもありますけど、あんまりなわざとらしさがギャグマンガのネタみたいで…。
2010/07/14(Wed) 21:44 | URL  | ばんない #kyBjvhlc[ 編集]
不吉な予感
ばんないさん、こんにちは。

番宣をご覧になったばんないさんの直感は当たるかもしれませんね。
今回のドラマは悪役と良い役がはっきり分けられていて、西郷は悪役に分類されていると思います。
龍馬と西郷の関係は、信義や友情ではなく、損得づくの打算的な関係として描かれるのではないかと思われます。

ですから、近江屋事件などは、龍馬はもう用済み→西郷が暗殺の黒幕という最悪のシナリオが予想されますね。


2010/07/16(Fri) 21:49 | URL  | 桐野 #hxjklqKc[ 編集]
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高橋克実の西郷隆盛役の違和感がぬぐえない。 ちびまる子の父さんならよかったけど、なぜにもっと恰幅のよい役者にしないかな。 いきなり龍馬との対面で開口一番、西郷のデブフェチの話が出ましたね。 これって歌舞伎の演目でも有名だそうですが、勝海舟の『氷川清話』にも
2010/06/28(Mon) 02:59:52 |  shugoroの日記
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