歴史作家桐野作人のブログ                                      織田信長と島津氏・薩摩藩・幕末維新を中心に歴史にまつわる身辺雑記
第30回「龍馬の秘策」

ドラマ進行時点:慶応元年(1865)何月頃なんでしょうな?
フィクションが多くて、確定できません。

前回から続いていますが、この分では、龍馬も近藤長次郎たちも鹿児島には行きそうもないですねえ。
カステラの話題はあまり関心がないので、ひとつだけ。

小松帯刀と西郷吉之助がからむ場面があって、薩摩藩の方針、とくに対幕関係をどうするかについて、西郷が長州出兵を拒否すべきではと小松に進言したところ、小松が「幕府に逆らうわけにいかん、うまく付き合うしかない」と西郷に答えていましたが、どうも違和感ありますね。
小松はすでに前年の禁門の変のときから、幕府からの出兵要請に対して、幕命は受けない、朝命(朝廷の命令)なら受けるという態度を示しているほどです。ですから、名分が立たない第2次長征なら、なおさら幕命に従うはずがないです。

慶応元年5月、将軍家茂の上京によって、幕府は第2次長州征伐に乗り出そうとしますが、諸藩の多くは消極的か反対でした。名分が立たないのと、財政窮迫が理由です。

当然、薩摩藩も幕命拒否の藩論でまとまっていました。
たとえば、西郷はどうか。同年4月25日、筑前藩士の月形洗蔵に宛てた書簡には、

「近来関東(幕府のこと)においては、再長征の儀を促し候向きと相聞かれ申し候、この度は幕府一手を以て打つべしとの趣に相聞かれ申し候、勿論弊藩などは如何様軍兵を相募り候共、私戦に差し向くべき道理これなく候間、断然と断り切るつもりに決定いたし居り候」

幕府の第2次長州征伐に対して、西郷は幕府と長州の「私戦」だから、薩摩藩が兵を出す理由はないから、断然断ると藩論で決したと述べています。
幕府の行動はもはや大義のない「私戦」とまで、西郷は断言するとともに、すでに幕命拒否は藩論になっていると述べています。つまり、小松もとっくに承知で、同様の認識だということです。

また、同年閏5月5日、西郷が小松に宛てた書簡には、

「(将軍家茂が)いよいよ発足の様子、自ら禍を迎え候と申すべく、幕威を張るどころの事にては御座あるまじく、これより天下動乱と罷り成り、徳川氏の衰運この時と存じ奉り候」

とあります。
将軍家茂の上京に対して、西郷が醒めた目で見ており、幕威を張るどころか、逆に天下動乱となり、徳川氏は衰退するだろうとまで述べています。とくに将軍家茂に敬称を用いていないのが注目ですね。西郷の対幕認識を示しています。

一方、大久保一蔵も西郷と同様の認識でした。
5月12日、同僚の伊地知壮之丞に宛てた書簡には、

「幕府も別して奮発にて長州征伐の再挙これあり、大はづみの由に聞こえ申し候、これは別して面白き芝居に成り申すべきと楽しみ申し候、(中略)彼は彼、我は我にて大決断策を用い申さず候ては相済み申さず候」

大久保は幕府の長州再征を「面白き芝居」だとして高みの見物をさせてもらおうというわけです。「彼は彼、我は我」というのは、幕府は幕府、薩摩は薩摩でわが道を行くという意味です。「大決断策」というのは、薩摩藩の「割拠」策を意味すると思われます。

小松帯刀については、この時期、この問題に関する史料は残念ながらないようですが、西郷や大久保とそれほど意見が違うとは思われません。

薩摩藩は慶応元年前半、すでに対幕自立=割拠方針を藩論として定めており、その方針に沿って動き出していたのです。その要点は、藩政改革による軍事力強化、そのための封建商社育成構想、そして対外的には対長州接近策です。
近藤長次郎たちや龍馬が相次いで鹿児島入りし、近藤らは長崎に行き、長州の武器購入を斡旋したのも、龍馬が陸路から太宰府の五卿に会い、長州に行って木戸貫治(のち孝允)と会見したのも、薩摩藩の対長州接近方針に沿った動きでしょう。
すなわち、龍馬たちは薩摩藩の対外方針を実現すべく動いていたといえそうです。
長崎でのあれこれはどうもかったるいというか、歯がゆい動きですね。
龍馬の先見性と国事周旋力を際立たせるために、薩摩藩がまだ時勢に遅れており、薩長和解に踏みきれずにいるという演出になっていますが、実際は逆だと思うんですけどねえ。

次回は、中岡慎太が登場するようですね。

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【2010/07/25 23:48】 | 龍馬伝
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一種の判官びいき?
視点
このドラマの脚本家である福田靖氏は山口の出身で、当然、高杉晋作などのいわゆる“長州びいき”の視点なはずです。様々な場面で話を強引にもってきているようで、これはある意味、仕方のないことなのかもしれません。

今のところ、このドラマでは、龍馬と長州のみが「先見の明」を持つという基本構成になっていますので、歴史をある程度知っている方々が見ると、いろいろ違和感を抱いてしまうかもしれませんね。

極端に言うと、このドラマの製作者は、龍馬と長州関係者の歴史研究しかしていないんですよ。その他の登場人物は単なるイメージだけで作られているようです。

山口出身
桐野
視点さん、はじめまして。

脚本家さんは山口出身でしたか。なるほど、よくわかりました。何となく、ドラマにもそれが反映されていますね。
薩摩は「悪役」になる役回りだということもわかりました。



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この記事へのコメント
一種の判官びいき?
このドラマの脚本家である福田靖氏は山口の出身で、当然、高杉晋作などのいわゆる“長州びいき”の視点なはずです。様々な場面で話を強引にもってきているようで、これはある意味、仕方のないことなのかもしれません。

今のところ、このドラマでは、龍馬と長州のみが「先見の明」を持つという基本構成になっていますので、歴史をある程度知っている方々が見ると、いろいろ違和感を抱いてしまうかもしれませんね。

極端に言うと、このドラマの製作者は、龍馬と長州関係者の歴史研究しかしていないんですよ。その他の登場人物は単なるイメージだけで作られているようです。
2010/07/27(Tue) 17:18 | URL  | 視点 #z8Ev11P6[ 編集]
山口出身
視点さん、はじめまして。

脚本家さんは山口出身でしたか。なるほど、よくわかりました。何となく、ドラマにもそれが反映されていますね。
薩摩は「悪役」になる役回りだということもわかりました。

2010/07/30(Fri) 12:39 | URL  | 桐野 #hxjklqKc[ 編集]
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大丈夫かい? 第3部のスタートは視聴率15.8%とワースト更新。 あのプログレッシブカメラの撮影がいけないのか。 どうも泥臭く暑苦しいので避けられてしまうのか。 店とかでは龍馬関連商品が売れているのにね。 さて、今回の話も支離滅裂でどんどんおかしな方向へ。 秘策
2010/07/26(Mon) 10:53:24 |  shugoroの日記