歴史作家桐野作人のブログ                                      織田信長と島津氏・薩摩藩・幕末維新を中心に歴史にまつわる身辺雑記
友人の研究者、町田明広氏より表題の新刊をいただいた。
有難うございます。

詳しくは、ここをご覧下さい。

幕末維新史のわかりにくさは、まさしく「攘夷」思想にまつわるものだといっても過言ではありません。
とくに「尊王攘夷」V.S.「公武合体」というとらえ方は、次元の異なるものを対立させた俗説で、こうしたとらえ方こそ、幕末維新史をわかりにくくしている元凶だと、私も思っていました。
文久・元治年間まではほんの一部を除いて、討幕思想はありえません。長州系の過激な尊攘派でさえも「公武合体」を否定しているわけではないし、「開国派」に見える坂本龍馬も勝海舟も「攘夷」思想の持ち主です。

私が日頃不満に思っていた現状について、町田氏が幕末維新史の一面として「大攘夷V.S.小攘夷」という観点を提示したことは、まさに我が意を得たりという思いです。
とくに「開国派」だとされる坂本龍馬、勝海舟、岩瀬忠震らの思想をひもとき、彼らが「大攘夷」派であるという指摘はまさにその通りだと思います。
龍馬が蝦夷地や竹島(鬱陵島)に関心を示したのは、わが国の境界をめぐる問題だからであり、龍馬が国境防衛や国境拡張に関心をもっていたことを示し、またそうした境界地域に尊攘派を移住させようと考えていたのもまさしく「攘夷」そのものです。

町田氏はこうした「攘夷」思想の淵源を近世初期に成立した「日本的華夷秩序」に求めており、日本、その中核たる天皇が「中華」であり、四囲の「朝貢国」を従える思想だと位置づけています。

こうした概括に私もさほど異議がありませんが、いくつか考えたことは、

1.「尊王攘夷」V.S.「公武合体」という俗流的な構図を形成したのは、ほかでもない歴史研究者たちであり、それが教科書や概説書を通じて、一般の歴史ファンにも影響を与えたのは否めないはずです。新書という器の限界はあるでしょうが、やはりこうした先行研究(とくに戦後のそれ)への批判もあってよかったのではないかという気がします。

2.「大攘夷」の考え方が「日本的華夷秩序」に淵源があるというのはその通りだと思いますが、これは17世紀半ばの中国での「明清交替」(華夷変態)への対抗意識(満洲族の清国は中華ではない)によって形成されたと思います。町田氏はそれを「東夷の小帝国」だとうまく表現しています。もっとも、「東夷の小帝国」は緩やかな国際秩序であり、侵略的ではありません。
それがアジアへの侵略を通じた「東亜の大帝国」へと思想が拡大、飛躍する動因は何なのか、そのあたりもさらに突っ込んで触れてもらいたかったという気がします。内的には17世紀半ばとは段違いに異なる天皇権威の上昇でしょうか。外的には欧米列強のアジア侵略に対する危機感でしょうか。

それはともあれ、従来のありきたりでわかりにくい幕末維新史観から解放されたい人には好個の一冊といえます。ストンと合点がいく爽快感が味わえること請け合いです。

よろしければ、下記をクリックして下さい。
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【2010/09/17 22:58】 | 新刊
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ありがとうございました。
町田明広
桐野さん、こんにちは。いつもお世話になっております。
今回は拙著をご紹介いただき、誠にありがとうございます。まさに的を射たコメントをいただき、重ねて御礼申し上げます。多くの方に、実際に手に取っていただき、新しい幕末の歴史観を体感いただければと思います。

さて、ご指摘いただいた点につきまして、若干の言い訳(笑)を述べさせていただきます。
今回は徹底的な一般書としての分かりやすさを、企画段階から意識をしています。そのため、先行研究への言及といったアイテムはあえて割愛をした次第です。桐野さんのご指摘もある程度承知しての、エイヤーでありました。
また、「アジアへの侵略を通じた「東亜の大帝国」へと思想が拡大」への発展についてですが、幕末期は攘夷原理を縦軸としますと、本来は横軸に天皇原理があります。つまり、天皇をキーとした国体・政体論です。この攘夷原理・天皇原理が、マトリックスを構成していると考えます。そこまで言及しなければ、ご指摘の問題視角には回答できないと考えます。
しかし、今回は「徹底的な一般書としての分かりやすさ」をとにかく重視したため、攘夷のみで語り、天皇原理の存在は、あとがきですら触れていません。読者の混乱を回避した意図でしたが、いかがだったでしょうか。

できましたら、この点は続編『天皇の幕末史』で書き込みたいのですが、その前に、『攘夷の幕末史』が売れないと、もう書かせてもらえませんが(笑)
なお、宣伝になっていけませんが、来月上旬に岩田書院から出ます『幕末文久期の国家政略と薩摩藩 ―島津久光と皇政回復』においては、専門書で分かりにくいのですが、この点を説明しております。改めの謹呈いたします。

今後ともよろしくお願いいたします。 町田明広


楽しみにしています
桐野
町田明広さん

コメント有難うございます。

来月の単行本も楽しみですね。
じっくり読ませていただきます。



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コメント
この記事へのコメント
ありがとうございました。
桐野さん、こんにちは。いつもお世話になっております。
今回は拙著をご紹介いただき、誠にありがとうございます。まさに的を射たコメントをいただき、重ねて御礼申し上げます。多くの方に、実際に手に取っていただき、新しい幕末の歴史観を体感いただければと思います。

さて、ご指摘いただいた点につきまして、若干の言い訳(笑)を述べさせていただきます。
今回は徹底的な一般書としての分かりやすさを、企画段階から意識をしています。そのため、先行研究への言及といったアイテムはあえて割愛をした次第です。桐野さんのご指摘もある程度承知しての、エイヤーでありました。
また、「アジアへの侵略を通じた「東亜の大帝国」へと思想が拡大」への発展についてですが、幕末期は攘夷原理を縦軸としますと、本来は横軸に天皇原理があります。つまり、天皇をキーとした国体・政体論です。この攘夷原理・天皇原理が、マトリックスを構成していると考えます。そこまで言及しなければ、ご指摘の問題視角には回答できないと考えます。
しかし、今回は「徹底的な一般書としての分かりやすさ」をとにかく重視したため、攘夷のみで語り、天皇原理の存在は、あとがきですら触れていません。読者の混乱を回避した意図でしたが、いかがだったでしょうか。

できましたら、この点は続編『天皇の幕末史』で書き込みたいのですが、その前に、『攘夷の幕末史』が売れないと、もう書かせてもらえませんが(笑)
なお、宣伝になっていけませんが、来月上旬に岩田書院から出ます『幕末文久期の国家政略と薩摩藩 ―島津久光と皇政回復』においては、専門書で分かりにくいのですが、この点を説明しております。改めの謹呈いたします。

今後ともよろしくお願いいたします。 町田明広
2010/09/19(Sun) 09:00 | URL  | 町田明広 #-[ 編集]
楽しみにしています
町田明広さん

コメント有難うございます。

来月の単行本も楽しみですね。
じっくり読ませていただきます。

2010/09/22(Wed) 20:48 | URL  | 桐野 #hxjklqKc[ 編集]
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